アルコール依存症治療の難しさのひとつは、本人が「自分がアルコール依存症だ」と認めない限り、強制的に病院に連れて行くことが出来ないことにあります。
私は上司を見限り、「アメリカの関連部署に1年間出張させる」と言う命令を出させることにしました。書類は私が作成し、上司が命令したようにしました。
上司には、会社から出張が認められてから1年間出張の報告をしました。判断力の低下を利用し、上司には「自分が私に命令した」と、理解させました。信じられないかもしれませんが、アルコール依存症というのは、これほどまでに理性を失わせるのです。この作戦は成功し、「そうか、オレが命令したのか」と上司は信じました。
これほどアルコール依存症がひどくなれば、社内でも上司がおかしいことはわかってきていましたが、過去の実績、特殊な権限、会長との関係などから、だれも表立ってことを明らかにしませんでした。たぶん「知らぬふりをしながら自滅するのを待つ」ということだったのでしょう。
私が1年間部屋を空ければプロジェクト自体が成り立たず、上司が部屋でアルコールを飲みながら時間をつぶしていたのもわかり、私が帰国したときには、私の株が上がっている、と言うのが計算でした。
上手に計算したつもりでしたが、2004年の秋、上司の奥さんが知り合いの医師と相談し、「肝臓が悪そうだから検査に行く」という理由をつけて上司を病院に連れて行ったのです。診察後、「肝臓が悪い」と言う名目で直ちに強制入院をさせました。2005年1月私がアメリカに出発するときには、上司のアルコール依存症は回復に向かっていました。